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コラムVol.42

人生100年時代:ステージ変化の自己選択

佐貫 総一郎 (さぬき そういちろう)

社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、2級キャリア・コンサルティング技能士(国家資格)・産業カウンセラー。1981年、慶應義塾大学経済学部卒後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。個人財務相談、事務要員の算定、証券、年金、相続などのさまざまな業務を経験、支店次長、財形事務センター長などとしてマネジメント業務にも携わったのち、ライフプランセミナー講師を務めた。三菱UFJ信託銀行を退職後、オール・アセット・アンカー(株)を設立。ライフプラン・マネープラン・キャリアプランなどの支援や働き方改革の関連などでの執筆・セミナーなどで活動中。著書に『現場からはじめる働き方改革』(共著)(2019年3月発刊・金融財政事情研究会)がある。

人生のトランジション(節目・転機)

誰にでも、人生のステージや生き方などが大きく変化する分岐点があります。この節目・転機は「トランジション」ともいわれます。一昔前には、「定年」というトランジション(節目・転機)を受け身でとらえていたサラリーマンが、リタイア後に生きがいさがしに右往左往するような姿が珍しくありませんでした。今も似た状況が少なくないかもしれません。
こんな状況に陥らないためにも、人生100年時代においては、人生のトランジション(節目・転機)や次のステージでの生き方などをあらかじめ考察し、受け身でなく自ら選択(自己選択)するといった心構えや準備が必要でしょう。

人生のステージ変化

心理学者のユングのライフサイクル理論では、人の人生を日の出から日の入りまでの太陽の動きに例え、「少年期」、「成人前期」、「中年期」、「老人期」の4段階に分けています。
人は一生を通して発達していく存在であるという前提に基づく発達過程の段階です。
心・体・頭脳・人間関係・経験・感性・良識・判断力などの多面的な要素が、自身や社会などとの関係において、「成長⇒適合⇒円熟⇒集大成」といったステップを作っていくことに符合して、精神的に脱皮していく過程ともいえます。

ユングのライフサイクル理論(参考)

ユングは、各段階に上記のような発達課題があり、それを達成できないと心理的な危機に陥る可能性があるとしています。また、その段階の移行期(節目)が大事な時期であるともしています。例えば、「成人前期」から「中年期」への移行期を人生の中盤(40歳前後~50歳)の太陽が昇り切った「人生の正午」と呼び、その後の人生への不安等に直面する時期であり、人生最大の危機であるとしています。

ステージ変化とトランジション(節目・転機)

さて、このような発達段階やステージ変化と人生のトランジション(節目・転機)を考えてみます。
誕生から学生生活までの20年前後が、ユングの「少年期」に相当するといえます。改正が行われる民法上の成人年齢(18歳あるいは20歳)前後までが相当する時期でもあります。教育を受ける場などの選択もありうるとはいえ、自身の基礎形成の時期として、義務教育などの所与の制度を踏まえたステージを経ていきます。
大きなトランジション(節目・転機)となるのが、社会人となる時期です。ユングの「成人前期」に相当する社会との適合を深める時期への変化といえます。学生時代とは違う、ある意味、社会の制度が求める最初の大きなトランジションのタイミングとも言えます。ここでの人生の選択の納得感が職業生活へも影響すると考えられます。
ここまでのトランジション(節目・転機)は、ある程度用意されたものともいえます。
定年まで働いてリタイアするサラリーマンであれば、その後、定年や公的年齢の支給開始年齢を踏まえた60~65歳頃まで、所与の制度がトランジションを意識させるまでには、長い期間があるともいえます。定年間近になり、自身の会社の人事制度(管理職定年・再雇用制度・退職金制度・給与体系など)なども踏まえた人生の変化のインパクトに直面し不安を持つ方も少なくありません。
前出のユングの「人生の正午」も踏まえると、自ら40歳・50歳台で人生を振り返り、以後の展望を行う必要もあります。そのこと自体が自律的なトランジションともいえます。その後の人生のあり方を考えることを意識しないと流されてしまうことになりかねません。ユングは、「老人期」を衰退のプロセスではなく「仕上げ」の時期、すなわち、人生の最後(旅立ち)に向けての個性化・内面化を通じた成長・発達の集大成の時期としています。「人生の正午」の意識を怠ると、発達課題の解決への取り組みを置き去りにするばかりでなく、次の「集大成」へのステージの充実への準備等をおろそかにすることにもなります。
いずれにせよ、ライフサイクル的な観点でのトランジションへの向き合い方が大事であることは明白でしょう。

意識したい「自己選択」

社会に出て以降の人生の歩みの中では、さまざまな人生の変化をもたらす要因があります。どんな方にも、必ずしも年齢に縛られないライフイベント(結婚・子育て、住宅取得など)といったものがあり得ます。さまざまな人生の変化は、ユングの発達課題といった観点とも関連しながら自身のトランジションとして選択されていたりもいます。ただ、私たちは、人生の大きな変化への明確な意識や想定、その準備等に及んでいないことが多いと思われます。冒頭のサラリーマンの例のような状況が典型的かもしれません。
人生100年時代を考える際には、自身のトランジション(節目・転機)についての時期などの自己選択を意識する必要がより大きくなるでしょう。自身の身の置き方や生きていくことへの拠り所などの展望と自己選択への絶えざる意識と準備がこれからはさらに必要になります。その準備には、ライフプランニング、自己啓発、健康管理、資産形成など多岐にわたるものが考えられます。自己選択によるステージの変化やトランジションを意識すると自身にとって必要な自己選択のための行動の習慣化などへ踏み出せるはずです。

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